サンライズ
第3話
数分歩き、バスに10分ほど揺られ、それからまた数分歩いた。バスを降りてからは上り坂で少し疲れたけれど、厄介な日差しは周りの木々で遮られている分まだ楽だ。
「那緒ちゃん。あとどれくらい?」
「もう、この坂を上り切ったらすぐだよ」
坂はあと少し。普段から運動をしていない体にはかなり応えた。それは太陽君も同じのようで息が荒くなっている。そんな私たちには構わず、那緒ちゃんはどんどん先へと進んでいく。
「2人ともー。着いたよー」
前方を歩いていた那緒ちゃんが上の方で言う。その声を聞いて少しだけ体に力が入った。
「ね、きれいでしょ?」
登り切ってから日差しの方を見る。自分たちのいる場所はまるで日差しに照らされたステージのようで、そこにいる私たちはスターだ。そして下を見下ろすと、
「すっごくきれい。こんな場所があったなんて知らなかった」
「当然だよ。地元民でも知らない人多いから」
確かに、バスにはかなりの人が乗っていたけど停留所でバスを降りた人はいなかった。
「本当だ。きれいですねー」
少し遅れて太陽君の声が聞こえた。
「やっと上ってきたの?新葉にも負けてるじゃん」
「運動の方はいまいちなもので。あ、そうだ」
太陽君は背負っていたリュックを下した。そしてリュックから素人にも高そうに見える黒いカメラを取り出す。
「うわ、めっちゃ本格的!」
「そうでもないですよ」
そう言って丁寧にレンズカバーを外し、太陽君はカメラを構える。私にはわからないけれど、太陽君曰く一番いいポイントを探しているらしく、太陽君は少し離れた位置まで移動した。いわゆる映えスポットというやつだろうか。
私たちはしばらく太陽君の姿を観察したあと、近くにあった石のベンチに座った。
「あそこまで本格的だとは思わなかったわ」
那緒ちゃんが思わずこぼす。
「確かにすごく高そうだよね。あとで写真見せてもらおっか」
「そうだね。以外に将来有名な写真家になったりして」
「ふふ、なりそうなりそう。でも、どうしてこんなにきれいな場所なのに知られていないんだろうね」
「まぁ交通の便悪いし、歩かないといけないし、夏は虫が多いし、冬は雪降るし、ぶっちゃけ私もあんまり来ないよ、ここ。よっぽどのもの好きだったら別だけどさ」
「私は好きだけどな。確かに坂上るのはしんどいけど。今度は絵を描きに来ようかな」
「あ、太陽とここに来たらいいじゃん!からかってるとかじゃなくて、お似合いだと思うよ、二人とも」
「またまた、やめてよ」
「でも趣味が似てるんだし。あんたたちの趣味ってこういうところに来ないとできないでしょ?人もあんまり来ないし、良いと思うけどな」
「まあたしかに。最高の場所ってことに間違いはないね」
「そうでしょ?2人を連れてきてよかった。ほかの人には教えないようにしないとね」
那緒ちゃんは笑ってベンチから立ち上がった。すでにあたりは暗くなりつつあって、日差しの光は少し残っている程度だった。ちょうど太陽君もカメラを大事そうに抱えてこちらへ向かってくる。
「本当にここ良いですね。今度はもっと明るい時に来てみたいです」
「そうでしょそうでしょ。あ、新葉もまたここにきて絵を描きたいみたいだから、時間あれば一緒に来たら?」
「そういえば、新葉さんも風景画を描くのが趣味でしたね。僕も同行していいですか?」
「え、あ、もちろん。この場所だとすごくいい風景描けそうだし」
「高台で見通しが良くて、なにより人が少ないことがいいですよね」
強調するとこってそこ?と思うけど、まあ人によって価値観は違うよねと思い「うん」と返しておく。
「おい2人とも。いちゃつくのはそこまでにして降りるよ。暗くなりすぎるとお化け出るかも」
「やめてよ那緒ちゃん」
まったく2つの意味で。
「そうだ、太陽。さっき撮った写真、私たちにも見せてよ」
「いいですけど、夜になってからでもいいですか。データ化する必要があるんですけど、あいにくこれからバイトが入っていまして」
「バイト?太陽君は何のバイトしてるの?」
「家庭教師です。地元の子を教えていまして」
「地元の子ってことはオンラインで教えてるってこと?」
「そうです。僕が中学1年生の時から教えている子です。その子は弟の友達で、最初はただ勉強を見ていただけだったのですが、ちゃんと教えてほしいということで、高校1年生の時からお金をもらって教えてます」
「ふーん。太陽が家庭教師か。めっちゃわかりやすいけどそれ以上にまじめな授業してそう」
「まあ、ぼちぼちやっていますよ。あ、写真はどこに送ればいいですか?」
「うーんこちゃでもいいし、後で3人のグループ作っておくから、そこでもいいよ」
「じゃあ、僕はそのこちゃって人は知らないので、グループに送っておきますね」
「いや、太陽。こちゃって言うのは個人チャットの略ね」
二人の会話を聞いて思わず笑ってしまう。
「そういうことでしたか。道理で変な名前の人がいるなと。じゃあ後でグループに送っておきます」
「お願いね。私よりも新葉の方が楽しみにしているだろうから」
「もう何も言わない」こっちを向いてきた那緒ちゃんを無視する。
「そうですかそうですか。あまりいいモノでもないですが、楽しみにしておいてください」
「もう太陽君まで」
その後、那緒ちゃんはバスに乗って帰っていった。那緒ちゃんを見送った後、私と太陽君は歩いて帰った。途中までは同じ道だったけれど、大きな通りに出たところで家が反対にあるとわかった。また高台へ行く約束をして別れる。1人で歩きながら今日起こったことを思い返した。太陽君と那緒ちゃんに会えたことは幸運だなと思い、1人でくすっと笑う。いい大学生活になりそうだと思うとさらに嬉しくなった。
その夜、3人のグループに5枚の写真が送られてきた。あれだけ時間があったのにこれだけかと思いながら、写真を見た次の瞬間、私は息をのむ。
まるでバックにおしゃれなBGMが掛かっているように、それはそれはきれいな写真で、まるで私はその場にいるようだ。
「カメラだとこんなにもきれいに撮ることができるんだ」
1人しかいない部屋で、自分自身に言う。
はなまるのスタンプを送ってその日は目を閉じた。
「那緒ちゃん。あとどれくらい?」
「もう、この坂を上り切ったらすぐだよ」
坂はあと少し。普段から運動をしていない体にはかなり応えた。それは太陽君も同じのようで息が荒くなっている。そんな私たちには構わず、那緒ちゃんはどんどん先へと進んでいく。
「2人ともー。着いたよー」
前方を歩いていた那緒ちゃんが上の方で言う。その声を聞いて少しだけ体に力が入った。
「ね、きれいでしょ?」
登り切ってから日差しの方を見る。自分たちのいる場所はまるで日差しに照らされたステージのようで、そこにいる私たちはスターだ。そして下を見下ろすと、
「すっごくきれい。こんな場所があったなんて知らなかった」
「当然だよ。地元民でも知らない人多いから」
確かに、バスにはかなりの人が乗っていたけど停留所でバスを降りた人はいなかった。
「本当だ。きれいですねー」
少し遅れて太陽君の声が聞こえた。
「やっと上ってきたの?新葉にも負けてるじゃん」
「運動の方はいまいちなもので。あ、そうだ」
太陽君は背負っていたリュックを下した。そしてリュックから素人にも高そうに見える黒いカメラを取り出す。
「うわ、めっちゃ本格的!」
「そうでもないですよ」
そう言って丁寧にレンズカバーを外し、太陽君はカメラを構える。私にはわからないけれど、太陽君曰く一番いいポイントを探しているらしく、太陽君は少し離れた位置まで移動した。いわゆる映えスポットというやつだろうか。
私たちはしばらく太陽君の姿を観察したあと、近くにあった石のベンチに座った。
「あそこまで本格的だとは思わなかったわ」
那緒ちゃんが思わずこぼす。
「確かにすごく高そうだよね。あとで写真見せてもらおっか」
「そうだね。以外に将来有名な写真家になったりして」
「ふふ、なりそうなりそう。でも、どうしてこんなにきれいな場所なのに知られていないんだろうね」
「まぁ交通の便悪いし、歩かないといけないし、夏は虫が多いし、冬は雪降るし、ぶっちゃけ私もあんまり来ないよ、ここ。よっぽどのもの好きだったら別だけどさ」
「私は好きだけどな。確かに坂上るのはしんどいけど。今度は絵を描きに来ようかな」
「あ、太陽とここに来たらいいじゃん!からかってるとかじゃなくて、お似合いだと思うよ、二人とも」
「またまた、やめてよ」
「でも趣味が似てるんだし。あんたたちの趣味ってこういうところに来ないとできないでしょ?人もあんまり来ないし、良いと思うけどな」
「まあたしかに。最高の場所ってことに間違いはないね」
「そうでしょ?2人を連れてきてよかった。ほかの人には教えないようにしないとね」
那緒ちゃんは笑ってベンチから立ち上がった。すでにあたりは暗くなりつつあって、日差しの光は少し残っている程度だった。ちょうど太陽君もカメラを大事そうに抱えてこちらへ向かってくる。
「本当にここ良いですね。今度はもっと明るい時に来てみたいです」
「そうでしょそうでしょ。あ、新葉もまたここにきて絵を描きたいみたいだから、時間あれば一緒に来たら?」
「そういえば、新葉さんも風景画を描くのが趣味でしたね。僕も同行していいですか?」
「え、あ、もちろん。この場所だとすごくいい風景描けそうだし」
「高台で見通しが良くて、なにより人が少ないことがいいですよね」
強調するとこってそこ?と思うけど、まあ人によって価値観は違うよねと思い「うん」と返しておく。
「おい2人とも。いちゃつくのはそこまでにして降りるよ。暗くなりすぎるとお化け出るかも」
「やめてよ那緒ちゃん」
まったく2つの意味で。
「そうだ、太陽。さっき撮った写真、私たちにも見せてよ」
「いいですけど、夜になってからでもいいですか。データ化する必要があるんですけど、あいにくこれからバイトが入っていまして」
「バイト?太陽君は何のバイトしてるの?」
「家庭教師です。地元の子を教えていまして」
「地元の子ってことはオンラインで教えてるってこと?」
「そうです。僕が中学1年生の時から教えている子です。その子は弟の友達で、最初はただ勉強を見ていただけだったのですが、ちゃんと教えてほしいということで、高校1年生の時からお金をもらって教えてます」
「ふーん。太陽が家庭教師か。めっちゃわかりやすいけどそれ以上にまじめな授業してそう」
「まあ、ぼちぼちやっていますよ。あ、写真はどこに送ればいいですか?」
「うーんこちゃでもいいし、後で3人のグループ作っておくから、そこでもいいよ」
「じゃあ、僕はそのこちゃって人は知らないので、グループに送っておきますね」
「いや、太陽。こちゃって言うのは個人チャットの略ね」
二人の会話を聞いて思わず笑ってしまう。
「そういうことでしたか。道理で変な名前の人がいるなと。じゃあ後でグループに送っておきます」
「お願いね。私よりも新葉の方が楽しみにしているだろうから」
「もう何も言わない」こっちを向いてきた那緒ちゃんを無視する。
「そうですかそうですか。あまりいいモノでもないですが、楽しみにしておいてください」
「もう太陽君まで」
その後、那緒ちゃんはバスに乗って帰っていった。那緒ちゃんを見送った後、私と太陽君は歩いて帰った。途中までは同じ道だったけれど、大きな通りに出たところで家が反対にあるとわかった。また高台へ行く約束をして別れる。1人で歩きながら今日起こったことを思い返した。太陽君と那緒ちゃんに会えたことは幸運だなと思い、1人でくすっと笑う。いい大学生活になりそうだと思うとさらに嬉しくなった。
その夜、3人のグループに5枚の写真が送られてきた。あれだけ時間があったのにこれだけかと思いながら、写真を見た次の瞬間、私は息をのむ。
まるでバックにおしゃれなBGMが掛かっているように、それはそれはきれいな写真で、まるで私はその場にいるようだ。
「カメラだとこんなにもきれいに撮ることができるんだ」
1人しかいない部屋で、自分自身に言う。
はなまるのスタンプを送ってその日は目を閉じた。