御曹司は離婚予定の契約妻をこの手に堕とす~一途な愛で溶かされました~
* * *
「瑠衣! こういう場くらい、もう少し愛想よくできないのかよ」
壁際に追い詰められて、内心で恐怖を感じながら相手の顔をじっと見つめる。
近すぎる距離に迫っているのは、私、成瀬瑠衣の恋人の遠藤弘樹だ。
日頃からスポーツを楽しんでいるガッチリとした体に立ちふさがれて、彼以外のものは視界に入らなくなる。
なんとか大声にならないように抑えているようだが、弘樹の苛立ちが全身から伝わってきた。
「はあ」
彼が漏らした重いため息に、指先が小さく震える。
お願いだから、私を嫌わないでほしい。そう縋りつきたいのに、体は硬直して上手く動いてくれない。
おそらく表情も同じようなもので、なんの感情も浮かんでいないだろう。
私の心の内に渦巻く激情は、恋人にすら気づかれない。
こういう場面で瞳に涙をためてしおらしくできるような性格だったら、弘樹もこれほど怒りはしなかっただろうか。
ううん。もとから愛嬌のあるかわいいタイプの女の子だったら、そもそも彼を不快にさせていないはずだ。
「ごめんなさい」
我ながら、温度を感じさせない声音だと思う。
謝罪の言葉と同時に伏せた瞼を、ゆっくりと開けた。
そんな私から一歩距離をとった弘樹が、不満を隠さない視線でつま先から頭の先までねめつけてくる。
今日は、彼とふたりで結婚式に参加していた。新婦は大学生の頃に知り合った私の親友の渚で、新郎は弘樹の友人だ。
そんなおめでたい日だというのに、披露宴を終えた直後にこの人目につきにくい一角に連れて来られて、怒りをぶつけられている。
幸せそうなふたりに温かな気持ちになっていたが、それもすっかり色あせてしまった。
「瑠衣! こういう場くらい、もう少し愛想よくできないのかよ」
壁際に追い詰められて、内心で恐怖を感じながら相手の顔をじっと見つめる。
近すぎる距離に迫っているのは、私、成瀬瑠衣の恋人の遠藤弘樹だ。
日頃からスポーツを楽しんでいるガッチリとした体に立ちふさがれて、彼以外のものは視界に入らなくなる。
なんとか大声にならないように抑えているようだが、弘樹の苛立ちが全身から伝わってきた。
「はあ」
彼が漏らした重いため息に、指先が小さく震える。
お願いだから、私を嫌わないでほしい。そう縋りつきたいのに、体は硬直して上手く動いてくれない。
おそらく表情も同じようなもので、なんの感情も浮かんでいないだろう。
私の心の内に渦巻く激情は、恋人にすら気づかれない。
こういう場面で瞳に涙をためてしおらしくできるような性格だったら、弘樹もこれほど怒りはしなかっただろうか。
ううん。もとから愛嬌のあるかわいいタイプの女の子だったら、そもそも彼を不快にさせていないはずだ。
「ごめんなさい」
我ながら、温度を感じさせない声音だと思う。
謝罪の言葉と同時に伏せた瞼を、ゆっくりと開けた。
そんな私から一歩距離をとった弘樹が、不満を隠さない視線でつま先から頭の先までねめつけてくる。
今日は、彼とふたりで結婚式に参加していた。新婦は大学生の頃に知り合った私の親友の渚で、新郎は弘樹の友人だ。
そんなおめでたい日だというのに、披露宴を終えた直後にこの人目につきにくい一角に連れて来られて、怒りをぶつけられている。
幸せそうなふたりに温かな気持ちになっていたが、それもすっかり色あせてしまった。