御曹司は離婚予定の契約妻をこの手に堕とす~一途な愛で溶かされました~
「瑠衣は美人だが、とんだ見かけ倒しだな。綺麗な格好をしているのに、笑顔のひとつもない」

 自分の美醜については、正直よくわからない。
 親友の門出である日くらいはと、今日はプロの手を借りて普段よりも着飾ってきたつもりだ。

 いつもはひとつにまとめているだけのロングの黒髪も、今日は緩く巻いてシニヨンにしてきた。剥き出しになった首もとが心許ないが、華やかな場で野暮ったい格好をするわけにもいかない。

 父親譲りの切れ長の目は、暖色のコスメを駆使して少しでも印象が柔らかくなるように工夫した。
 残念ながらチークの似合う甘い顔立ちではないため使用はあきらめたが、若干薄めの唇にはベージュ系の口紅を選んで優しさを演出したつもりだ。

 この日のために、艶のあるネイビーのロングドレスを新調した。落ち着いた色味が気に入っていたが、二十五歳という年齢を考えたらもう少し華やかな色を選ぶべきだっただろうか。
 淡い色のものにしていたら、冷淡に見られがちな私でも温和な雰囲気をつくれていたかもしれない。

 髪型もメイクも朝早くから時間をかけて仕上げてきたが、いくら外見を取り繕っても中身が伴っていなければ意味がない。それくらい、私だってわかっている。

 でも、努力は認めてもらいたかった。
 
 嫌いにならないでほしい。そう強く願うのに、私は感情表現が苦手で素直な表情も言葉も出てこない。
 焦りと悔しさ、それから恐怖で頭がいっぱいになる。けれどその気持ちが現れているのは、密かにドレスを握りしめた両手だけだろう。

 気まずい沈黙が支配する中、人の気配を察してわずかに体をずらしながら視線を向ける。
 弘樹もそれに気づいたようで、瞬時に怒りの感情を隠して私からさらに距離をとった。
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