御曹司は離婚予定の契約妻をこの手に堕とす~一途な愛で溶かされました~
 私は感情を表に出すのが苦手で、愛想笑いすら上手く見せられない。だから、弘樹が怒るのも、無理はないのかもしれない。

 今日は同じテーブルに、私とはそれほど面識のない新郎側の友人が多く座っていた。
 本当は弘樹と離れてしまっても見知った顔の多い新婦側の席がよかったけれど、彼が同じテーブルにしてくれるように頼んでしまっていた。

 主役のふたりに、どう言ってお願いしたのかは知らない。でも、私たちの交際は知っているため、彼の望むように手配してくれたのだろう。
「本当に大丈夫?」と、渚はこっそり尋ねてくれた。親友の手を煩わせたくなくて、そのままにしてもらった結果がこれだ。

 弘樹の周りは、彼と同じ体育会系の男性が多い。その独特な明るいノリが苦手だったが、今日は自分なりに合わせていたつもりだった。

 ただ、私の手ごたえと周囲の反応は異なっていた。
 私が席を外した途端に、弘樹は友人から『なんか緊張する』『声をかけづらい』と言われたそうだ。
 自分では気づかなかったが、彼らと私との温度差は大きかったらしい。テーブル内で、私はすっかり浮いた存在になっていたようだ。
 がんばったつもりでも独りよがりになってしまっていたと、今になって後悔してももう遅い。

 親しい相手に気を遣わせてしまったのは、仲間を大切にする弘樹にとっては許し難かったに違いない。
 彼にとって友人の存在がとても大きいのだと、これまでの付き合いでわかっている。だからこの場は、私が引くべきなのだ。

 いつまでも会場にとどまっているわけにもいかず、帰り支度をして外へ向かう。
 心細いし惨めなのに、私の瞳からはひと筋の涙もこぼれなかった。
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