御曹司は離婚予定の契約妻をこの手に堕とす～一途な愛で溶かされました～

「あっ、成瀬さん。おはようございます」

　背後からかけられた三浦さんの声に、体が強張る。

「もう、急に結婚だなんてびっくりしちゃいましたよ。だって、成瀬さんってつい少し前までほかの男性と付き合っていたじゃないですか」

　仕方なく振り返れば、彼女はいつも通りのかわいらしい笑みを浮かべつつ、その瞳に不快感を滲ませていた。
　声を潜める気もなかったのは、間違いなく葵さんとの結婚にケチをつけるのが目的なのだろう。

「おはようございます。すみませんが仕事が溜まっているので、プライベートの話なら失礼させていただきます」

　震える指先を、ぎゅっと握り込む。
　ここで私がうろたえてしまえば彼女の思うつぼだと、なんとか平静を保つ。
　期待した反応を得られなかっただろう三浦さんは、忌々しそうに私を睨んで自席に向かった。

　三浦さんの口撃で出だしこそ心を乱されてしまったけれど、その後は問題なく時間が過ぎていく。

「あっ、小早川さん！」

　そろそろ休憩に入ろうかと机回りを片づけはじめたとき、三浦さんの高い声がフロアに響いた。

　彼女にはなにかセンサーでもついているのか、容姿のよい異性や優秀だと評される男性社員が来るといち早く気づく。
　葵さんには先日あれだけ冷たくあしらわれたというのに、三浦さんは果敢にも彼に近寄っていった。

「どうかされたんですか？」

　つい、彼女を目で追ってしまう。
　小さく首を傾ける姿は、異性から見たらかわいらしいに違いない。