御曹司は離婚予定の契約妻をこの手に堕とす～一途な愛で溶かされました～

「君は、なにを言っているんだ？」

　それまでよりも不機嫌さの増した葵さんの声に、三浦さんが小さく身じろぐ。

「別れた男と誰が仲良くしていようが、瑠衣はまったく気にしていない。だが、俺たちが結婚したと知っている上でその話題を持ち出したのなら、ずいぶんいい性格をしているんだな」

　葵さんの鋭い視線に、さすがの三浦さんがうろたえる。

「君は、会社になにしに来ているんだ？　新入社員でもないのに、いまだに学生気分が抜けないなど、君の上司に一度話を聞く必要がありそうだ」

「み、三浦さん。ちょっといいか」

　どこかで様子をうかがっていたのだろうか。課長が慌てた様子で、会話に割って入ってきた。

「今日までにとお願いしておいた件だが、進み具合はどうだ？」

　ふたりが話しはじめたのを見届けて、葵さんとふたりでその場を後にした。

「いつも、あんな感じなのか？」

　会社の近くのカジュアルなレストランに入り、葵さんが切り出した。〝あんな〟とは、もちろんさっきの三浦さんの言動だろう。

「三浦さんには、なぜか目の敵にされているようで。私たちの間に、とくになにかあったというわけでもないのに」

　彼女は印象操作が上手くて、周囲に私が悪く思われるような言動が多い。
　おまけに私は感情表現が乏しくて、冷淡に見られがちだ。彼女の味方をする人の反応から想像するに、私が三浦さんをいじめているように感じられたかもしれない。

　それを真に受けている人ばかりではないと、今朝の長谷川さんの様子でほっとしたが、やはり気持ちのいいものではない。