御曹司は離婚予定の契約妻をこの手に堕とす~一途な愛で溶かされました~
「瑠衣はわかりづらいだけで、内にたくさんの感情を抱えている。それが少しでも伝われば、捉え方は変わってくるだろう。瑠衣はこんなにかわいいだと、気づくはずだ」

「ちょっと待ってください。なんだか、趣旨が変わっています」

 慌てて彼を止めたが、ニヤリとされただけだった。

「たしかに、瑠衣のかわいさをほかの男に気づかれるのはおもしろくないか」

「だから、そうではなくて」

 さっきから、〝かわいい〟を連呼しすぎだ。

「さすがに、人の妻に手を出すような輩はいないだろうがな」

 焦る私を、葵さんがおもしろそうに見てくる。

「その元カレとやらも、瑠衣を手放すなんて馬鹿だなあ」

 あの人には、もう三浦さんがいる。
 多少言動は気がかりな彼女だが、かわいらしく甘えてくれるところなんかは、彼にとって理想的なのだろう。

「いや。三浦さんに感謝すべきか。彼女が横取りしてくれたおかげで、俺は瑠衣を捕まえられた」

 チラリと私を見た彼の視線に、ドキリと胸が跳ねる。

「捕まえただなんて」

 こんなふうに甘い言葉をかけられ続けたら、彼は本当に私を好きなのかもしれないと勘違いしそうになる。
 決してそうではないと頭ではわかっているものの、繰り返される言動に私は葵さんをずいぶんと意識している。
 
 縁談避けの仮初の夫婦だというのに、葵さんはとことん私を大切にしてくれる。比べるわけではないけれど、私を責めるばかりだった弘樹とはまったく違う。

 急にはじまった関係だというのに、葵さんの傍にいるのは心地いい。それはおそらく彼が私を理解して、すべてを包み込んでくれているからだろう。

 葵さんは、連れない態度を取りがちな私との対話をあきらめない。感情がわかりづらくても、投げ出さずに知ろうとしてくれる。
 甘やかされるのに慣れなくて困ってしまうけれど、嫌なわけじゃない。

 彼は私の味方だ。知り合ってわずか数日だと言うのに、すっかりそう信頼している。
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