御曹司は離婚予定の契約妻をこの手に堕とす~一途な愛で溶かされました~
* * *

 翌朝になっても沈んだ気持ちを引きずっていたが、いつも通りに起床して出社の準備をはじめた。
 梅雨明けはまだ先のようで、外に出るとどんよりとした雲が空一面を覆っている。首筋に纏わりつく髪を、雑な仕草で払いのけた。

 式場で別れて以来、弘樹からはなんの連絡も来ていない。
 煩わしいだろうかと不安になりながら勇気を出して送った【おやすみ】のメッセージを、彼は見てもいないようだ。

「はあ」

 重いため息をこぼしながら、駅までの道を急ぐ。

 弘樹との交際は一年半くらいになるが、ここのところうまくいっていない自覚はある。
 もともと私たちは同じ大学の同期生で、在学中は挨拶をする程度の見知った仲だった。
 それが卒業後しばらくして、近くに住んでいる人だけでもたまには集まって飲もうと話が持ち上がり、弘樹と再会することになる。

 人付き合いの苦手な私に、参加する気はまったくなかった。でも、渚に絶対に行こうと誘われたら断れない。
 渋々顔を出したところで、弘樹を含む数人から声をかけられたのをきっかけに、友人付き合いがはじまった。

 何度か食事や飲み会が企画され、私も渚に連れられて顔を出していた。
 明るく活発な彼女とは違い、私は端の席でひっそり過ごしていることが多い。
 遠巻きにされがちな私を、渚がフォローを入れる。放っておいてかまわないのにという文句を、彼女は笑顔でかわした。
 そんな私たちの他愛もないやりとに興味を示したのが、弘樹だった。

『成瀬って、友人の前ではそんなふうに笑ったりするんだな』

 目撃されていたのが恥ずかしくて、途端に表情をなくした私を彼はおかしそうに見ていた。
< 7 / 114 >

この作品をシェア

pagetop