御曹司は離婚予定の契約妻をこの手に堕とす~一途な愛で溶かされました~
ひとりで大丈夫だからという意を込めて、半歩後ろに立った彼を見上げる。
視線の合った彼は、ニヤリと笑ってみせた。
「記念すべき、初めての夫婦共同作業だな」
たかが夕飯づくりに、やたらと重い意味を持たせないでほしい。
その言葉に彼が夫であると強く意識してしまい、衝動的に目を逸らした。
視線が逸れた隙に、葵さんが背後からふわりと私を抱きしめてくる。
「なっ」
突然の行動に驚いて小さく体を捩ったが、私の頭に顔を乗せて優しく自由を奪ってしまう。
「ほら。俺は瑠衣にべた惚れで、頼み込んで結婚してもらった男だろ? その設定に慣れるためには、普段からの練習が大切だと思わないか?」
「で、でも。ここは家で、誰も見ていないし……」
「今ですらこれだけで体を強張らせているのに、他人の前だったらどんなふうになってしまうのか」
人前でいちゃつかなければいいという正論は、浮かびもしなかった。
そうこうしているうちに、髪に口づけられているのを感じて身を縮こまらせる。
「俺の奥さんは、初心でかわいらしい」
「か、かわいくなんて、ないです」
うろたえる私の髪を、葵さんが優しくなでてくる。
「いいや、誰よりもかわいい。俺の前では、こうして素直な感情を見せるようになってきたなんて、たまらないな」
見せるようになったのではない。葵さんが深く私に入り込んでくるから、隠せなくなってしまうだけだ。
私にここまで踏み込んだのは、渚以外にいない。
元カレの弘樹は優しいときもあったけれど、冷静になって振り返ってみれば、彼はいつだって自分本位だった。
私の希望よりも自分の願望を優先する。そんな傲慢さが引っかかっていたのに、その違和感から目を背けて関係を続けてしまった。
葵さんが、髪に頬をぐりぐりと擦りつけてくる。
恋人がいたとはいえ、弘樹とはこれほどわかりやすく甘い雰囲気になったことがない。それはおそらく、本当の意味でふたりがわかり合えていなかったからだろう。
視線の合った彼は、ニヤリと笑ってみせた。
「記念すべき、初めての夫婦共同作業だな」
たかが夕飯づくりに、やたらと重い意味を持たせないでほしい。
その言葉に彼が夫であると強く意識してしまい、衝動的に目を逸らした。
視線が逸れた隙に、葵さんが背後からふわりと私を抱きしめてくる。
「なっ」
突然の行動に驚いて小さく体を捩ったが、私の頭に顔を乗せて優しく自由を奪ってしまう。
「ほら。俺は瑠衣にべた惚れで、頼み込んで結婚してもらった男だろ? その設定に慣れるためには、普段からの練習が大切だと思わないか?」
「で、でも。ここは家で、誰も見ていないし……」
「今ですらこれだけで体を強張らせているのに、他人の前だったらどんなふうになってしまうのか」
人前でいちゃつかなければいいという正論は、浮かびもしなかった。
そうこうしているうちに、髪に口づけられているのを感じて身を縮こまらせる。
「俺の奥さんは、初心でかわいらしい」
「か、かわいくなんて、ないです」
うろたえる私の髪を、葵さんが優しくなでてくる。
「いいや、誰よりもかわいい。俺の前では、こうして素直な感情を見せるようになってきたなんて、たまらないな」
見せるようになったのではない。葵さんが深く私に入り込んでくるから、隠せなくなってしまうだけだ。
私にここまで踏み込んだのは、渚以外にいない。
元カレの弘樹は優しいときもあったけれど、冷静になって振り返ってみれば、彼はいつだって自分本位だった。
私の希望よりも自分の願望を優先する。そんな傲慢さが引っかかっていたのに、その違和感から目を背けて関係を続けてしまった。
葵さんが、髪に頬をぐりぐりと擦りつけてくる。
恋人がいたとはいえ、弘樹とはこれほどわかりやすく甘い雰囲気になったことがない。それはおそらく、本当の意味でふたりがわかり合えていなかったからだろう。