御曹司は離婚予定の契約妻をこの手に堕とす~一途な愛で溶かされました~
* * *

 それからも、葵さんは私を甘やかし続けた。
 都合のつく限り、会社までは彼の車で行っている。さすがにランチまでいつも一緒にとはいかないが、社内で顔を合せれば気遣いの声をかけてくれる。
 さらに就業時間外であれば、葵さんは打って変わって蕩けるような笑みを浮かべて私に接する。その効果なのか、彼が想定していた通りスピード結婚に関する悪評は聞こえてこない。

 人目を気にするあまりうろたえてしまう私の姿は、どうやら噂になっているらしい。もとが真逆の雰囲気だったのもあり、社内一の有望株を捕まえたことへの嫉妬よりも、私の変化の大きさが話題の中心になっているようだ。

「本当に仲の良い夫婦なのね。小早川さんといると成瀬さんの雰囲気がガラリと変わるって前に言ったけど、大きく変化しているのは一体どちらかしらね」

 からかうような口調でそう言ったのは、エレベーターを待っている間に一緒になった長谷川さんだった。
 彼女は、葵さんに臆することなくからかいの視線を向けている。彼はそれに不快感を抱いてはいないようで、にこやかに返した。

「瑠衣を愛していますから。これからも妻をよろしくお願いします」

「はい、お願いされました」

 ほかの人の目もあるというのに、ふたりが冗談交じりにそんな言葉を交わしているのが恥ずかしくてたまらない。
 ついよそよそしくしていた私を、葵さんはくすりと笑った。
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