御曹司は離婚予定の契約妻をこの手に堕とす~一途な愛で溶かされました~
 夕方になり、小休憩を挟みたくて席を立つ。
 飲み物でも購入しようと廊下の端の談話スペースへ近づくと、三浦さんの声が聞こえてきた。

「信じらんない。あの人、つい最近まで違う男と付き合っていたのよ」

 どうやら同僚とふたりで話しているらしく、ずいぶん攻撃的な口調に驚いて足を止める。気になって、つい聞き耳を立ててた。

 彼女は少し前に課長に呼ばれていたはずで、かなり不機嫌な様子で席に戻ってきた。相変わらずな態度について、指導が入ったのだろう。

 それからしばらくは、パソコンにむかって格闘していたはずだ。
 けれどそれほど経たないうちに、いつものように田中さんに声をかけていた。その後はどうなったか知らないが、早くもここで油を売っているのは、教えてもらったというよりお願いしてきた可能性が高い。

「そうは言っても、恵麻が相手の男を嫌がらせで寝取っちゃったんでしょうが。その執念深さはちょっと引くわ」

 おそらく、私の話なのだろう。

「だって、むかつくじゃない。ちょっと美人で仕事ができるからって、お高くとまっちゃって」

 私にそんなつもりはなくても、他人からはそう見えてしまっていたのかもしれない。

「それ、恵麻の思い込みじゃない? 最近の成瀬さんは、雰囲気が少し柔らかくなったって聞いたわ」

 うんざりとした口調から、同僚として仕方なく三浦さんに付き合っていると察せられる。

「それが腹立つのよ。少し前まで誰にも声をかけられなかったのに、ここのところ手助けをする人がいるのよ」

「そんなの、当然じゃない」

 同僚の、大きなため息が聞こえてきた。
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