御曹司は離婚予定の契約妻をこの手に堕とす~一途な愛で溶かされました~
「とにかく、私はあの人が気に食わないの! だから弘樹を寝取ってやったのに」

 未練がないとはいえ、こんな悪意を向けらたら心が痛む。

「ふたりが付き合っているのは、会社の前で一緒にいるのを見かけて知っていたのよ」

 それから彼女は、鬱憤をぶつけるかのように自慢げに続けた。

「彼がひとりでいるときに、私から声をかけたの。なんかあの人と喧嘩でもしたらしくて、連絡なしに謝りに来たんだって。それなのに私がちょっと甘えてみたら、ころっと靡いちゃうんだもん。簡単だったわ」

 そんな経緯があったとは知らなかったが、もう今さらだ。事実を知っても、心は微塵も揺れなかった。

「あのさあ、恵麻。好きでもない人に、自分を安売りするものじゃないよ。それに、成瀬さんはその人と別れた後に小早川さんと結婚したんだから、なんの問題もないじゃない」

「大ありよ。私だって、小早川さんを狙ってたんだから。もしかしてあの人、二股かけていたんじゃない? 弘樹にも、怪しいところはなかったか聞いてみよ」

 自分はどれだけ彼女に恨まれているのだろうかと、さすがに怖くなる。

「はあ。怪しいもなにも、後ろ暗いことをしたのはあなたたちの方じゃない。それに他人の恋人を奪っておいて、ほかの人もだなんて。恵麻、あなたの考えには付き合ってらんないわ。仕事の用じゃないなら、もう声をかけないで。私、そんなに暇じゃないから」

「なによ、もう」

 立ち上がる気配がして、慌てて身を翻す。
 そのまま通り沿いのお手洗いに入り、鏡の中の自分を見つめた。
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