御曹司は離婚予定の契約妻をこの手に堕とす~一途な愛で溶かされました~
 食事を済ませて寝支度を整えると、就寝までのわずかな時間をリビングで共に過ごす。

「――長谷川さんがよくしてくれて、私に声をかけてくれる人も増えたの」

 以前に比べて、私の口調はずいぶん砕けてきた。

「よかったじゃないか」

「葵さんのおかげだわ。本当に、ありがとう」

「つまり瑠衣は、俺に愛されて自信をつけつつあるんだな」

 満足げにそう言った彼は、優しい手つきで私の髪をなでた。

「三浦さんは、瑠衣に迷惑をかけていないか?」

 心配そうな顔で尋ねられる。
 立ち聞きしてしまった話を思い出して、小さくため息を漏らす。彼に請われるまま、隠さずにすべてを明かした。

「――自分勝手な人間だな。採用担当は、なにを見て彼女を入れたのか。そのあたりの見直しが……」

 独り言のようにつぶやいた言葉は、将来あの会社を背負って立つ側の発言だった。

 本当なら葵さんは、私とこんなふうに過ごしていていい人ではない。
 彼には、ご両親からお見合いの話が持ち込まれていたくらいだ。きっと会社のためになる縁談もあったのだろうと、想像に容易い。

 あいさつをした際、社長は私たちの結婚を受け入れてくれたように見えていた。
 でも、本心はどうだったのだろうか。
 結婚に興味のなかった葵さんが、急にその意志を見せたのはたしかに喜ばしかったのだろう。だからすんなり認めてくれたのかもしれない。
 けれど冷静になったとき、葵さんに結婚の意志があるのなら、会社にとってメリットのある相手の方がいいと考えてもおかしくない。

 葵さんと、ずっと一緒にいたい。
 そう強く望む反面、いつまでも彼を拘束し続けているわけにはいかないともわかっている。

 こんなときばかりは、感情が表に出にくくてよかったと思う。
 辛くて仕方がないのに、きっと表情には出ていないはず。もしばれてしまっても、三浦さんが原因だと勘違いさせられるに違いない。
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