トライアングル・ワン
「ウィーッス」

 三限が終るとウエーブがかった金髪を横にながした白羽くんが、鞄を肩から背中に提げて尾田くんの席の横を通り過ぎようとした。

 今日も遅刻の様だ。

「オイッス。おっ、新しいピアス? かっけえじゃん」

「だろだろ」

 白羽くんは顔を横に向けて尾田くんにピアスを見せた。

「いくらしたんだよ?」

「三万、クロイドのヤツ」

「へー、思い切ったな」

「バイトして貯めたんだ、ずっと欲しくてよ」

「似合ってんよ」

「サンキュ。そういや、お前、最近、あのネックレスしてねーな?」

「あー、あれ、どっかで切れて落しちまってよ」

「あー、もったいねー、限定モデルだろ?」

「ん、そう。ま、切れた時が縁の切れ目よ」

「なんだそれ! お前、ホントいさぎいいよな」

「去るものは追わない男、尾田だからな」

「ウソつけ! ハッハッハ」

 白羽くんは笑いながら自分の席に向かって行った。

 ああ……尾田くんの十分の一でもコミュ力があったら、美香と仲直りするキッカケが思いつきそうなのになぁ……。

 
 四限が終わりお昼休みになったので、ササッとお弁当を食べ、頭の中で一人作戦会議を再開した。

 どうしよう……。

 そう思いながらも、すぐに視線は尾田くんの方へ。高橋くんが尾田くんの机の脇の壁に寄りかかっている。

「今日から俺たちの新しい仲間のケンタロウだ」

「こんなヤツいたっけ?」

「ちょ、高橋君、それひどくない!」

 ケンタロウくんがメガネを光らせ高橋君を見上げた。

「冗談だって。で、なんでまたこんなヤツを?」

「また!」

 ケンタロウくんが少し飛び上がりそうになって言った。

「冗談、冗談」

 高橋くんは半笑いで言うと、尾田君が高橋くんの方を向いた。

「いや、こう、太陽のようにまぶしい俺らと対極に位置するところにいたから、つれて来たら面白いかと思って」

「え、それどういう意味!?」

 ケンタロウくんが尾田くんを見上げた。

「なるほど」

 壁に寄りかかった高橋くんが腕を組んで相槌を打つ。

「な、なるほどって……!」

 ケンタロウくんが高橋くんを見上げる。

「お前、好きな女とかいんの?」

「な、なんだって唐突にそんな事を……!」

「ははぁ、さてはいるな、このクラスに……」

「そ、そんな、好きな人だなんて」

 ケンタロウくんが声を上ずらせる。

「かわいいな、と思うのは、いるんだろ?」

 尾田くんも攻める。

「そ、それわ……」

「誰だよ、言ってみろよ、楽になるぜ……?」

 高橋くんが言うと、ケンタロウくんは小声で何か言ったが聞き取れなかった。

「高野さん?」

 高橋君がわりかし大きな声で聞きなおした。

「ちょ、ちょっと!」
 
 ケンタロウくんが両手で制止するそぶりをした。

「あれだ、背のちっちゃい方」

 尾田くんが教室の隅の方を指差した。そちらを見ると、あまり話した事の無い、二人のメガネをかけた女子がおしゃべりしていた。

「ああ。ふーん、お前、ああいうのが好きなのか、どこがいいの?」

「ど、どこがいいのって……! 高橋くん、きみちょっと失礼じゃないかな!?」

 ケンタロウくんの語気が少し強まった。

「別にそういうわけじゃねーよ。具体的に彼女のどこら辺が好きになったのかって事」

「そういう事かい……そうだね、実は彼女も僕も小説を書いていてね、恋愛対象というかライバルというか……まぁ、そういうものさ」

 ケンタロウくんはメガネの位置をなおした。

「彼女はまたの名を、春風黄色という」

 尾田くんが唐突に言った。

「な、なぜ、その名前を!?」

 ケンタロウくんがうろたえた。

「尾田、お前、高野さんと仲よかったの?」

「俺はみんなと友達だ」

「そうなの? へ~、お前小説なんて書いてんのかよ? スゲェじゃん、明日見せろよ」

「だ、ダメだよ……応募前の原稿は命の次に大切なんだ……」

「そんな事言ってあれだろ、本の中で高野さんと恋愛してんだろ?」

「……バ、バカな事言っちゃいけないよ! そんな訳ないじゃないか!」

「じゃあ、どんなの書いてるんだよ?」

「そ、それは……まぁ、あれだよ、一人の男が、一人の女性を一途に愛し抜く話だよ……」

「やっぱそうじゃねぇか。それに、お前が言うと、なんかつまんなそうだな」

「な、なんて事言うんだっ! ボクの小説読んだ事もないくせにっ!」

「え、本屋にあるの?」

 高橋くんが真顔で聞いた。

「キーーーーーーーーッ!!!」
 
 ケンタロウくんが地団駄を踏んだ。

「あははは、おもしれー」

「い、今に見てろよ~!」

 男子っていいなぁ……。
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