地獄に落ちた女王様
 なんでこんなことに。

 彼女は恐怖した。と同時に、驚いてもいた。

 現代でもこんなことってあるんだ。

 何度見ても目に映る景色は変わらない。

 マンガで見たことあるような閻魔大王と赤い柱の部屋、二本の角をはやしたガタイのいい獄卒(ごくそつ)の鬼たち。よくある鬼のイメージと違って虎柄のパンツは履いておらず、着物を着ていた。みんな三メートルを超えそうな大きな体をしていて、見下ろされるだけで怖い。

 いかめしい顔をした閻魔大王はほかの鬼たちより豪華な衣服を身に着け、黒地に金のふちどりの冠のようなものを頭に載せていた。

 彼はぎろっと彼女をにらんだ。
夜川麗妃(よるかわれいひ)だな」

「はい」
 彼女はうなずいた。それは本名ではないが、確かにそう名乗っていたから。

「享年30歳、バナナの皮ですべって頭を打って死亡。間違いないな」
「……はい」
 麗妃は恥ずかしくてうつむいた。鬼とはいえ、周囲に誰かがいる状態で言われたい死亡原因じゃない。

 誰なの、道路にバナナの皮を捨てたの!
 彼女は悔しく唇を噛む。

 もし見つけたら窒息しない程度にクビ締めてやるのに!
 とはいえ、自分はもう死んでいるのだから、会うこともないだろうけど。

 そんなことより。
 麗妃は落ち着きなく自身の手をさすった。

 自分はただ一生懸命に生きて来た。人の道に背いたことなんてない。
 なのに、そんな惨めな死に方をしたあげくに地獄に落ちることになるなんて。

「どうして地獄にいるのか、と言いたげな顔だな」
 閻魔大王が言う。麗妃は答えられずに彼を見た。

「お前は生きている間に数々の男を虐げてきた」

「そんなことしてません!」
 彼女は愕然として答えた。

「言い逃れはできぬぞ。こちらの鏡を見よ」
 閻魔大王が鏡を示す。

 亡者の生前の様子を映すという浄玻璃(じょうはり)の鏡だった。

 そこには麗妃が男性を踏みつけている姿があった。
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