地獄に落ちた女王様
「お前がやってきたことはすべてわかっているぞ」

 彼女は青ざめた。
 確かに彼女は男性を踏みつけた。
 だが、それは仕事だった。

 生前、彼女は夜になると出勤した。

 店では体にピッタリした赤いエナメルのボンテージを着て、同じく赤いエナメルのハイヒールを履き、男を待ち受ける。

 客の望みに応じてムチを振るったり踏みつけたり罵ったりしていた。

 ただムチをふるえばいいというものではない。強めが好きな人もいれば弱めが好きな人もいる。

 身体的なあれこれより、言葉責めが好きな人もいる。

 各個人の好みを覚えて対応し、新規の客にも臨機応変に対応した。

 シチュエーションを指定する人もいた。それどころか台本を持ってくる人もいたから、すぐさま覚えて台本通りに演じたこともあった。

 道具の消毒には気をつけたし、縄の縛り方も必死に勉強した。縄も拘束具も使い方を間違えれば大変なことになる。安全への配慮は必須だった。

 先輩にもいろいろ指導してもらった。

 そうやって必死に勉強しながら仕事をこなし、お客様が満足できるように頑張り、上司の期待に応えてきた。

 虐げるどころか、むしろ貢献してきたつもりだ。
 なのに、地獄で裁きを受けるはめになるなんて。
 
 鏡は次々と映像を映す。

「女王様とお呼び!」
 今、鏡の中の自分はそう叫んで全裸の男にムチを振るっていた。

「自らを女王と宣するおこがましさ、わかっておるか」
 閻魔大王が言う。

「私が望んで言っていたわけでは……」
「嘘をつくならば舌を抜くぞ」

 彼女は思わず口をおさえた。

 下僕たちに女王様と呼ばれるたび、快感を得ていたのは事実だ。

 だが、やはりそれは仕事だ。

 女王としての務めを、やりがいとともに果たしていただけだ。

「お前には地獄がふさわしい」
 閻魔大王の言葉に、彼女は絶望した。
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