大切なひと~強引ドクターは最愛の人をあきらめない~
「あまりに一方的なお話ですね」
「あんたは? 関係ないヤツは邪魔しないでくれ」
明日香の叔父は、突然割り込んできた燈生を忌々しそうに睨んできた。
「彼女の上司です」
「いつもお世話になっている、病院の偉い先生なの」
明日香が説明すると、燈生を警戒したのか「医者?」と呟いている。
「彼女の住まいを取り上げるようなお話ですね」
「親戚同士の話しなんだから、口を挟まないでもらいたい」
「ですが、住むところを失って彼女の仕事に支障がでたら困ります」
適当な理由を言いながら燈生が一歩近付くと、相手は後ろへ下がる。
大柄な燈生を前にして、少し怯んだようだ。
「病院としても職員を守る義務があります。弁護士を立てて、この件は対応させていただきます」
燈生は相手の返事を待たずに、スマートフォンを取り出して電話をかけた。
相手は弁護士の敦だ。
「あんたになんの権利があって!」
明日香の叔父は不機嫌そうにしていたが、弁護士に連絡をするのを見て慌てだした。
敦はすぐに電話に出た。
「忙しいところすまない。頼みがあるんだ」
『なに?』
「相続問題と土地の売却だから専門だろ?」
『うん』
「詳しいことは、あとで説明する」
『了解。待ってる』
電話を切ってから、燈生はメモ帳を取り出す。
サラサラと敦の勤めている事務所の名前と電話番号を書いて渡した。
「電話の相手は、この弁護士事務所にいる坂野敦弁護士です。彼を通して話しを進めてください」
敦が勤めているのは、都内でも名の通った大手事務所だ。
メモを見た明日香の叔父はさすがに知っていたのか、オロオロし始める。
「小田明日香さんとは直接売却の話はしないように」
「わ、わかった。だが、あの家を売るのは決定だからな」
捨て台詞のような言葉を残して、明日香の叔父は去っていった。