大切なひと~強引ドクターは最愛の人をあきらめない~
聞き間違いかと思ったが、本気のようだ。
「あの連中はかなり怪しい。また来るかもしれないから、ここに君がひとりで住むのは不用心すぎる」
明日香の不安が伝わったのか、燈生まで硬い表情だ。
「君が想像している以上に、叔父さんは危険なところに借金をしているのかもしれないな」
「はい」
「この状況を見てしまって、君を置いて帰るわけにはいかない」
「いえ、私、ホテルにでも泊まりますから」
「今から探すのも大変だろう」
もう遅い時間だから、友人の家は迷惑だろう。
駅前にいけば、いくつかビジネスホテルがあったはずだと頭の中で考える。
「なんとかします」
「遠慮しなくていい」
明日香は必死で断るのだが、燈生は引いてくれない。
「とにかくここは物騒だ。車で待っているから、数日分の着替えを用意してきなさい」
「は、はい」
燈生の口調が上司から部下への指示のように感じられて、明日香は車を降りて小走りで家の中へ入った。
なにも考えられないまま、機械的にスーツケースにあれこれと詰め込んだ。
戸締りをしてから門を出ると、燈生が車から降りて待ち構えていた。
その姿を見た瞬間、明日香はなぜか、この人といれば大丈夫な気がした。
あの男たちからも、叔父からも守ってくれる人だ。
燈生は荷物をトランクに積んでくれた。
「あの、本当によろしいんでしょうか?」
再び助手席に座らされた明日香の問いに答えはなく、車は静かに動きだした。