大切なひと~強引ドクターは最愛の人をあきらめない~



燈生は急に帰国してきた事情から話し始めた。
まだアメリカでやりたいことがあったのに、病院の人手不足を助けて欲しいと院長から頼まれたそうだ。

「父は、俺に病院を継がせたいんだ。その気はまったくないんだが……」

言葉の端々から、父である病院長とはあまりいい関係ではないのが察せられた。
プライベートな話を聞かされても、明日香はただうなずくことしかできない。

「父からは病院を継げだの結婚しろだのうるさく言われるし、副院長の叔父からは病院を継ぐ気かと目の敵にされるし、これ以上は仕事に支障をきたす」
「はあ。それは大変ですね」

坂野家の事情を聞かされても、明日香には現実味のない話だ。相槌はうったものの、感覚的にはわからない。

「しばらくの間だけでいい。ここに住んで俺の婚約者のフリをしてくれないか?」
「コンヤクシャ?」

いきなり耳慣れない言葉が耳に飛び込んできたので、自分の口で反すうしてしまう。

「私が? 先生のコンヤクシャ?」
「ああ、もちろんフリでいい。しばらく父からの縁談攻撃を避けるためだ」

「コンヤクシャのフリですか?」

我ながら驚きすぎて、舌足らずな言い方になってしまった。

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