大切なひと~強引ドクターは最愛の人をあきらめない~


真理恵は親斉が妻と別れて自分と結婚してくれると思って出産したのかもしれないが、思惑通りにはいかなかった。
院長の娘と結婚している親斉が、その立場を捨ててまで真理恵を選ぶわけがない。

母と父が普通の関係ではないとわかり始めた頃、燈生はいきなり坂野家に引き取られた。
父の訪れを待つだけの暮らしに耐えられなくなった母が、幼い燈生を親斉に託して姿を消したのだ。

その日以来、燈生は人の悪意に晒された。
母親に捨てられた子と呼ばれたし、愛人が産んだ子だとあからさまに言われたこともある。
おまけに坂野一族には医師や弁護士、政治家までいて、親族からは養子のくせにと蔑まれた。

特に義母となった倫子の弟で、坂野総合病院の副院長である伊久(これひさ)には嫌われた。
燈生が医大生になってからは、目の敵にされたといってもいいくらいだ。

『なぜ、お前が医者を目指すんだ!』

親斉に院長の座を奪われたうえに、燈生が跡を継ぐかもしれないと焦ったのだろう。
婿養子の親斉が愛人に産ませた子だから、燈生には正当な坂野家の血は一滴も流れていない。
だから伊久にとって、燈生は許しがたい存在なのだ。

燈生だって自分の立場は理解しているが、世間からみれば坂野総合病院のひとり息子だ。
容姿にも恵まれている燈生は、どうやら結婚相手として優良物件なのだろう。
学生時代から彼に交際を求めて近づいてきたり、あからさまに媚びてきたりする女性は後を絶たなかった。

そんな環境に嫌気がさして、燈生は医師としてひとり立ちするなり、さっさとロサンゼルスに渡ったのだ。






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