大切なひと~強引ドクターは最愛の人をあきらめない~
「君が好きだ。一緒に暮らせたらどんなにいいだろうって思っていた」
彼の言葉に、明日香は顔が火照るのを感じる。
その頬に燈生の指先が触れると、いっそう熱くなる。
「ずっと後悔していたんだ。婚約者のフリを頼んでしまったから、本当の気持ちを言いだせなくて」
「嬉しい」
明日香は正直に答えた。これまで隠していた想いが報われたと信じたい。
「明日香も、同じ気持ちだった?」
「私も、燈生さんのことが好きになってしまって……でも、婚約者のフリを頼まれたのだから言えなくて」
明日香が答えると、今度は燈生の方から抱きしめてきた。
「明日香」
体に回された腕の力強さに圧倒されていると、明日香の頬に軽く燈生の唇が触れた。
「燈生さん」
唇は少しずつ下がってきて、やがて明日香の唇を捉えた。
すべるように唇をなぞられると、体中が甘い痺れに襲われる。
「好きだ」
「あ……」
彼の声が聞こえたと思ったら、深い口づけが始まった。
明日香はもうなにも考えられなくて、ただ貪られるだけだった。
***
(明日香にすべてを話してしまった)
自分がこんなに衝動的な人間だとは思ってもみなかった。このところ立て続けに、考える前に行動してしまっている。
住むところを失ったうえに叔父との関係に心を痛めていた彼女を見て、つい『うちに来るか』と口走ってしまったときもそうだった。
もちろんマンションに住んでくれたら彼女を守れると思ったからだが、勢いで婚約者のフリをして欲しいとまで頼んでしまった。
しかもフリだなんて、突然思いついた考えだ。
混乱している彼女に付け込んだようで申し訳なかったが、彼女とはただの同僚という関係で終わらせたくなかった。