大切なひと~強引ドクターは最愛の人をあきらめない~


今夜もつい本音を喋ってしまった。
普段と違う弱気なところを軽蔑されるかと思ったが、彼女は温かく支えてくれた。

なぜか彼女には、自分をさらけ出してしまう。
まっ白な自分自身を見てほしいし、その温もりで癒されたい。
一度抱きしめたら離れがたかったけれど、いきなりすべてを求めてしまうのはさすがに無理がある。
明日香とはいいかげんな気持ちで付き合えない。
将来への約束なく、情熱のまま関係を持つわけにいかないと思ったからだ。


「また明日」

その言葉を交わして、ふたりはいつも通り別々の部屋に分かれた。

理性的になろうとしつつも、燈生は明日香の温かさがもう恋しくなっていた。

自分の生い立ちや母との葛藤について話せたことで、ずいぶん気持ちが楽になった。
これまでは誰にも言えなくて、ずっと自分の胸の中にもやもやと巣くっていた。
辛いとも苦しいとも言い難い負の感情は、引き取ってくれた父にも、戸籍上の母にも悟られたくなかった。
だからいっそう隠そうと努力したし、気を張りつめて生きてきた。

(母親に捨てられた子)

子どものころに言われた言葉は、今も胸の奥に刺さっている。

自分を捨てた母が、何年も経った今になって目の前に現れた。
しかも音沙汰がなかったというのに、いきなり異父弟がいたと知らされるとは思ってもいなかった。

(どうして放っておいてくれなかったのか)

自分を産んでくれたことには感謝しているが、それ以上どうしろというのだ。

引取ってくれた父から愛情を感じたことはない。
豊かな生活環境を与えてもらった半面、板野家の役に立てと言われ続けてきた。







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