大切なひと~強引ドクターは最愛の人をあきらめない~
「どういうことですか?」
そう言うなり、燈生は明日香を庇うようにデスクの前に立った。
「お前は呼んでいない」
「彼女はいずれ紹介するつもりでした。私がお付き合いしている小田明日香さんです」
白々しいかと思ったが、あえて彼女の名を告げる。
親斉は机の上に置いていた手を組んで、顎の下にもってきた。
そのポーズのまま、不機嫌そうに燈生を睨んでいる。
「まあ、話が早くていいだろう」
フッと息を吐いてから、言葉を続け始めた。
「彼女に別れてもらえないかと話したところだ」
「お父さん!」
「ここでは院長と呼べ」
親斉の声は、低くて暗い響きを帯びている。
「彼女は私の大切な人です。あなたに言われる筋合いはない」
「なにをバカなことを」
「いずれ、彼女と結婚するつもりです」
燈生も怯むことなく宣言したが、お前の意見など聞いていないといわんばかりの表情だ。
「坂野家の跡継ぎという使命を果たせ。この病院を盛り立てていくのはお前しかいないのだ」
親斉の言葉は威圧的で、燈生は拒否する立場にないと言わんばかりだ。
「お前に選ぶ権利はない」
その言葉を聞いて、燈生はおかしくなった。
「選ぶ権利? そんなもの、生まれた時からなかったでしょう?」
その言葉は、より親斉を怒らせてしまった。