大切なひと~強引ドクターは最愛の人をあきらめない~
「どういうことですか?」
明日香のそばに燈生が立ってくれただけで、震えがおさまった。
「お前は呼んでいない」
突然現れた燈生に、親斉は冷ややかな視線を向けている。
「彼女はいずれ紹介するつもりでした。私がお付き合いしている小田明日香さんです」
きっぱりと言い切ってくれる燈生が頼もしく感じられる。
「彼女は私の大切な人です」
「なにをバカなことを」
「いずれ、彼女と結婚するつもりです」
プロポーズとも取れる言葉に、明日香は伏せていた視線を燈生に向ける。
彼がふたりの将来を真剣に考えてくれていたことがわかった瞬間だった。
「ここを辞めます。坂野総合病院には優秀なドクターが大勢おられますから、次期院長はその中から選ぶべきです」
「なんてことを……お前はアメリカに帰るつもりなのか?」
「友人から、アフリカでの活動に参加しないかと誘われています」
「アフリカ? 医療ボランティアか?」
燈生との将来を想像してフワフワしていたら、いきなり明日香が知らなかった情報が耳に飛び込んできた。
(燈生さんがアフリカへ行く?)
父子が争っていることより、燈生がアフリカ行きを決めていたことの方が衝撃だった。
「燈生、自分が何を言っているのかわかっているのか!」
「彼女とは、家を出る覚悟で付き合っているんです」
そこまで燈生が言うとは思っていなかったのだろう。とうとう親斉は黙り込んだ。
「これまで育てていただいたご恩は、いつかお返しします。ですが、彼女と別れてまでここにいたいと思いません」
「どうしても別れる気はないというんだな」
「はい。彼女と生きていきたいので」