大切なひと~強引ドクターは最愛の人をあきらめない~




交際を反対されても自分の考えを貫こうとしている燈生の姿は頼もしかった。
明日香はただ黙って見守っていた。

「帰るよ」

気がつけば、燈生に手を引かれていた。

院長室を出て長い廊下を歩きながら、燈生は黙ったままだ。

「あの……」
「すまない」

先に燈生が謝ってきた。

「勝手にあれこれ言ってしまって」
「そんなことより、アフリカに行くって、どうして?」

声が震えそうになるのを必死でこらえた。

「ああ。たった今、決めたんだ」
「え?」

燈生も少し興奮しているのか、いつもより早口だ。

「友人からメールが届いたばかりなんだ。多国籍の医療チームを率いて北アフリカに行くから参加して欲しいとね」

「そうだったんですか」
「父と話しているうちに決心がついた」

決めたばかりなら自分が知らないはずだと、少しホッとする。

「急な話ですまない」

明日香の気持ちが伝わったらしい。
でも父親と言い争った興奮が残っているのか、燈生はいつになく荒んだ表情だ。
普段の無表情なクールさは消えて、頬に赤みがさしている。
彼の気持ちを少しでもなだめたくて、明日香はできるだけ明るく答えた。

「院長先生に呼ばれるし、いきなりアフリカに行くって言いだすし、もうパニックですよ」
「ごめんごめん。これから外来だから、家に帰ってからゆっくり相談しよう」

「はい」

急いで外来に向かう燈生を見送りながら、これからのことが不安になってくる。
彼の気持ちが自分に向いているのか、自信が持てない。

(好きだから? それとも、これは束縛?)

彼との未来が描けそうで描けない。アフリカに行ってしまうなんて、正直とてもショックだった。
明日香は思わず自分の手を握りしめた。













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