大切なひと~強引ドクターは最愛の人をあきらめない~


それからなんとか仕事をこなしたが、明日香の頭の中は『アフリカ』という言葉でいっぱいだった。

(彼が行ってしまったら、私はどうすればいいんだろう)

このまま病院に残っても、院長から嫌われてしまったから仕事がやりにくいかもしれない。
アフリカへついて行くことも不可能だろう。

(また、ひとりぼっち?)

燈生との暮らしが幸せすぎて、以前の生活に戻れなくなっている。
少し前まで祖父母と暮らした家でひとりで頑張っていたのに、今は燈生と離れると思っただけで胸が苦しい。

燈生を好きになってから、望むことが増えてしまったようだ。




***



その日、燈生の帰宅は遅かった。

「ただいま」
「お帰りなさい」

ジャケットを脱ぎながらリビングルームに入ってくる燈生の表情は読み取れない。

「明日香」

「はい」

ジャケットを受けとろうと思ったら、いきなり燈生に抱きすくめられた。

「今日は父がすまなかった。もう落ち着いたか?」

「ええ、あなたは?」
「医局で、アフリカ行きの話しをしてきた。三月いっぱいで病院を辞める」

遅い帰宅になった理由がわかった。
燈生はさっそく行動に移したようだ。
抱きしめられる力が少し緩んだので、明日香が燈生を見上げると微笑んでいる。
燈生の表情を見て、明日香は少しホッとした。
院長室での激しいやり取りのあと、ずっと険しい顔つきだったのだ。



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