大切なひと~強引ドクターは最愛の人をあきらめない~
「父との関係は、いつかこうなると思っていた。君を巻き込んで申し訳なかった」
「謝らないでください」
「俺は坂野家から逃れるために、長いこと父と決別する機会を待っていんだ」
燈生が医者を目指したのは、坂野総合病院を継ぐためではなかったのだ。
「高校生の頃は医師になりたいという気持ち以上に、坂野家を離れても生きていける力が欲しかった」
高校時代から独立したいと考えていたが、なかなか家を出るきっかけがなかったらしい。
医学部に合格して、やっとひとり暮らしを始められたと話してくれた。
親子関係が拗れているとは思ったが、明日香もそこまでだとは考えもしなかった。
ロサンゼルスの病院で働くと決めたのも、父親と距離を置くためだったようだ。
「でも、ひとつだけ感謝するなら、坂野総合病院で君に出会えたことかな」
明日香の返事を待たずに、燈生が軽くキスをしてきた。
「君が、勇気をくれた」
唇に軽く触れられて驚いているうちに、額に、頬に、キスの雨がふってくる。
「あ……」
明日香から甘い吐息が漏れた。
「明日香。アフリカから戻るまで、半年、いや一年になるかもしれないが、待っていてくれるか?」
「燈生さん?」
「今は、人生のリセットを優先させたい。すぐには無理だが、帰国したら君と家族になりたいんだ」
今度こそ本当にプロポーズされていると明日香が気付くまで、一瞬の間があった。
「待っていてくれる? 明日香?」
シンプルな言葉が明日香の胸をうつ。
「うれしい……待っています」
「帰ってきたら、すぐに結婚式を挙げよう」
「はい」
燈生は返事を聞くなり、明日香を強く抱きしめてくる。
そして今までにない、気が遠くなるような肉感的なキスをされた。
それは未来を約束してくれる誓いのキスだ。
唇のピリッとした刺激から始まって、やがて全身に伝わっていく甘い痺れ。
明日香は、その熱をずっと待っていたような気がした。