大切なひと~強引ドクターは最愛の人をあきらめない~
さよならは言わない
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燈生は三月いっぱいで病院を辞めて、アフリカに旅立った。
『必ず帰ってくる。それまで待っていてくれ』
燈生は明日香と約束してくれたのだ。
『愛している』
何度も抱きしめながら言ってくれた言葉は、明日香の胸にちゃんと残っている。
『帰ってきたら、すぐに結婚式を挙げよう』
そう言って明日香に口づけをした燈生。
彼が日本を出発するまでの短い間、ふたりは少しでも時間があれば体を重ねるほど燃え上がった。
離れている間も肌の温かさを忘れないように、お互いの体に刻みつけた。
『明日香、いってきます』
『いってらっしゃい。待っていますね』
『さようなら』という言葉は、ふたりとも選ばなかった。
ほんの少し離れるだけ。きっとすぐに会えるし、家族になるのだ。
燈生は多国籍の医療チームとの一員として、北アフリカの難民キャンプで医療活動を始めた。
やりがいのある仕事だと聞いているが、危険を伴う場所だ。
明日香は彼が無事でいるか不安でたまらないが、あえて燈生には伝えないと決めていた。
彼から『変わりないか』とメッセージをもらっても『元気だから安心して』としか返信していない。
燈生の言葉を信じているし、彼のやりたいことを応援したい。
(待ってるって約束したから、寂しいなんて言えない)
燈生がいなくなった病院は、やけに静かに感じた。
彼のいない虚しさ忘れようと、明日香はいつも以上に忙しく働いた。