大切なひと~強引ドクターは最愛の人をあきらめない~



悪阻が少し楽になり、赤ちゃんが無事に育っていると医師から言われたのは、初夏を感じさせる季節だった。

(そろそろ燈生さんに伝えなくちゃ……)

ふたりの関係は周囲に秘密のままだし、ましてや妊娠しているなんて友人にも話していない。
マンションにこもったまま誰にも頼らずに悩みを抱えているうちに、明日香は少しブルーになっていた。

そんなある日、来客を知らせるチャイムが鳴った。
燈生がアフリカに行ってから、この部屋には誰も訪ねてきたことはない。

そろそろとインターフォンのカメラをのぞくと、そこには坂野親斉の姿が映っていた。
さすがに無視できなくて、明日香は親斉を部屋に通した。

「いらっしゃいませ」

「ああ」

相変わらず明日香と視線を合わせようとしないし、威圧感すら感じる。
リビングのソファーに座った親斉にお茶を出してから、明日香も向い側に腰かけた。

「燈生が危険な場所にいるというのに……君は働きもせず、ここでのんびり暮らしていい身分だな」

部屋をぐるりと見まわしてから、苦々しそうに親斉が口にする。

「申し訳ございません、でも……」

明日香は口をつぐんだ。
燈生にもまだ伝えていないのに、赤ちゃんができたことを知らせてはいけないと気づいたのだ。



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