大切なひと~強引ドクターは最愛の人をあきらめない~
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(私がいなければ……私たちが出会わなければ、燈生さんと院長の関係がここまで拗れることはなかった?)
親斉の後悔と残された短い時間を知ってから、明日香はずっと考えて続けていた。
燈生は冷静でありながら、繊細なところがある。
自分を捨てた母と再会した時だって、あれほど傷ついていた人だ。
明日香のために父と絶縁したままでは、もしもの時にどれほど後悔するだろう。
突然肉親を失ってしまうのは耐えられないくらい辛いものだ。
両親を事故で亡くしている明日香には、その気持ちが痛いほどわかった。
悲しむ燈生を見たくないし、辛い思いをしてほしくない。
燈生との関係を修復して、彼を手元に置きたいと願う親斉。
自分が何より大切にしてきた病院を息子に任せたい気持ちもわかるし、いよいよの時には燈生にそばにいて看取ってもらいたいのかもしれない。
心身ともに弱っている親斉に『燈生を愛している』『彼と別れない』と言えるほど、明日香は強欲になれない。
(私とのことでお父様との関係を断ち切らせてはいけない)
燈生にはきちんと父親と向き合って欲しいし、彼の将来にとって病院はとても大切なものに思えた。
(ごめんね、赤ちゃん)
明日香はお腹の赤ちゃんに話しかけた。
ママは、パパが悲しむところを見たくない。パパに後悔してほしくない。
頭取のお嬢様と結婚して、心臓外科医として活躍する未来。
坂野総合病院の院長として、多くの患者さんを助ける立場になれる人なのだ。
そのために明日香が出来ることはひとつだけ。
(身勝手なママを許して。ごめんね赤ちゃん)
それから明日香は誰にも行き先を告げず、燈生の帰国を待つことなく、マンションを出た。
無謀かもしれないが、新しい仕事と住まいを探して、子どもとふたりで生きていく道を選んだのだった。