大切なひと~強引ドクターは最愛の人をあきらめない~
さつき苑では毎回の食事の時間に、食堂のテレビはつけたままにしている。
お年寄りの中には習慣だからと、正午や夕方のニュース番組を楽しみにしている人が多いからだ。
「今日のデザートはプリンですよ」
「先に食べたいわ」
「ちゃんとご飯を食べてくださいね。あとから運んできますから」
皆の食事の進み具合、飲み込みの状況を見て回るのも明日香の仕事だ。
楽しく食べてもらえているか確認しながら、大きなお腹を抱えるようにしてゆっくりとテーブルを回る。
その時、お年寄りたちの会話が耳に入った。
「あら、アフリカの話題よ」
「まあまあ、ボランティア活動ですって」
明日香もアフリカという言葉が耳に入ったので、慌ててテレビ画面を見上げた。
【国際医療チームの活動です】
【日本人医師も参加しています】
痩せた子どもたちの姿や、厳しい衛生環境が紹介されている。
そこに、明日香は燈生の姿を見つけた。
日に焼けて髭だらけだが、愛しい人の姿を見間違えるはずがない。
外国人スタッフたちと、昼夜を問わず医療活動をしている様子がうかがえる。
(燈生さん……)
あまりに突然だったから、現実のことだとは信じられない。
「難民キャンプにいる心臓病の子を救う活動ですって」
「大変なお仕事だね」
テレビの画面越しに、彼が現地の人たちに笑顔を向けているのがわかる。
(頑張っているんだ)
ニュース番組の中の短い特集コーナーだったが、燈生の姿が見られただけで嬉しい。
お腹の赤ちゃんにもこの喜びが伝わってくれたらと願わずにいられなかった。