大切なひと~強引ドクターは最愛の人をあきらめない~
トリアージ
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アフリカからフランスに渡り、心臓病の子の手術を終えてから燈生は帰国した。
日本を離れてから一年が経っていた。
今の燈生には仕事を成し遂げた開放感よりも、明日香の居場所がわからない焦燥感の方が勝っている。
明日香と連絡が取れなくなってから、もう何か月も経っていたのだ。
ある日突然、彼女からの連絡が途絶え、何度電話してもメッセージを送っても繋がらない。
電波状態がよくない環境にいたにしても、普通ではない。
焦ったし、なにかが起こっていると感じた。
どうにかしたいと思っても、すぐに身動きは取れなかった。
自分の力ではどうしようもなくて、従兄弟の敦に頼ることにした。
これまでの父と自分の関係を知っているから、すべて正直に話した。
病院を辞めた理由、アフリカでの活動、そして明日香のこと。
敦もいつかこうなると思っていたと、父と決別し明日香を選んだことを理解してくれた。
彼女と連絡が取れないから様子を見てくれと頼んだら、彼女を束縛したいのかと揶揄われたくらいだ。
ところが敦が明日香を訪ねると、病院は連休前に辞めているし、マンションはとっくに父が解約して片づけられていたのがわかった。
敦もただ事ではないと思って、なんとか明日香を探してみると言ってくれた。
だが、それ以来はかばかしい連絡はない。
知人も多く弁護士として独自のネットワークがある敦が探しても、明日香の行方はわからないままだ。
自分のいない間に、なにかが起こった。
具体的にいつなのか、誰がなにをしたのか気になって仕方がないが、アフリカと日本ではあまりにも遠かった。
それに難民キャンプの患者たちは燈生を頼りにしているから、放り出して帰国するなんてできない。
医師としての使命と、明日香への想いで燈生の心は乱れた。
そんな時、日本のテレビ局が取材にやってきた。
ここでの医療活動がニュースになってからは、患者の移送と手術のための資金がずいぶん集まった。
おかげで燈生も幼い心臓病の患者のためにフランスまで同行できたし、難しい手術にも立ち会えた。
無事に終わってから、やっと帰国できることになったのだ。
明日香に会いたい、ただそれだけしか今の燈生は考えていない。