大切なひと~強引ドクターは最愛の人をあきらめない~


「やっと帰ってきたな」

「お変わり……あったようですね」

父の姿を見て、その痩せ方にまず驚いた。
肩の辺りは白衣が浮き上がるくらい細くなっている。

「斎藤さん、少し席を外してくれ。電話も取り次がなくていい」
「わかりました」

秘書が出ていくと、親斉はゆっくりとソファーに腰かけた。
どこか緩慢な動きだ。

「疲れていないか」

アフリカからフランス経由で帰国したことだろうかと思ったが、難民キャンプでの活動のことだった。

「いい体験をしました」
「そのようだな」

「お父さん、体調はいかがですか?」

気になっていたことを口にすると、父は珍しく破顔した。

「お前に心配してもらえるとはな」
「お父さん」

「見てわかるだろう。もって、あと半年かな」

ケロリと父は言うが、燈生は。息をのんだ。

「もう何年も前からガンを患っていた。すでに転移している」

何年もということは、ロサンゼルスから帰国させられたときにはわかっていたはずだ。

「どうして言ってくれなかったんですか?」
「お前に心配かけても治るわけではない」
「それでも!」

父はいつもと変わらない冷静な話し方だ。

「ロサンゼルスから帰国したお前に、この病院を任せるつもりだった」

そのために最新の心臓手術ができる高価な装置を導入したとたんアフリカに行ってしまったから、維持費ばかりがかかっていると苦笑している。

「さっきの秘書が、融資してくれた銀行の頭取のお嬢さんだ。お前の結婚相手にと思って、ここで働いてもらっている」
「俺には約束した人がいます」

「彼女は去った」

「お父さん、まさか!」

「私が話をつけた」

やはりと、燈生の中で怒りが爆発しそうになった。
だが、今にも倒れそうな父と言い争うことはできない。

「さっそくだが、明日から心臓外科で働いてくれ」

「仕事のことはお任せください。ですが、あなたの決めた相手とは結婚しません」

燈生が言い切ると、親斉は口を閉じてプイと横を向いてしまった。
聞く耳は持たないという意思表示だろう。





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