大切なひと~強引ドクターは最愛の人をあきらめない~
今回の帰国は、表向きは医師不足を解消するためという理由になっているが、日本に帰ってこないことに業を煮やした親斉がアメリカの恩師に手を回していた。おそらく寄付金をかなり積んでいるだろう。
心臓手術の研究チームから外れてしまったのは残念だし、このうえ結婚相手まで決められたらたまらない。
燈生には医師としてやりたいことがたくさんある。
最新の心臓外科をもっと学びたいし、アフリカやアジアの難民キャンプでの医療活動にも意欲がある。
自分の人生を生きるためには、野心家の父とはいつか対立する日がくるだろう。
燈生は坂野総合病院の心臓外科で働きながら、ここぞというチャンスにかけるつもりだった。
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「明日香さん、今日もお手紙が届いていますよ」
昼食の配膳を終えた看護助手の和美から声をかけられた。
「ありがとう。スタッフの皆さんも読んでね」
「はい!」
明日香が数枚の紙を受け取ると、可愛い文字が並んでいる。
手紙というよりイラストのついた大きめの付箋なのだが『今日もありがとう』『おいしかった』とメッセージが書かれている。
「入院中のお子さんたち、お昼の献立を喜んでくれたみたいですね」
「ええ。みんなの明るい顔が浮かぶわ」
かわいいイラストや丸い文字を見ると、明日香は嬉しくなってくる。
「あ、デザートのゼリーが特に好評でしたよ」
のど越しがよくて、ほんのり甘いデザートは老若男女問わず人気がある献立だ。
「また新作考えなくちゃ」
「子どもたち、期待してますからね~」