大切なひと~強引ドクターは最愛の人をあきらめない~


受付で聞いた診察室までたどり着いた。
部屋の前にある長椅子に陸を抱っこしたまま座っていたら、看護師がやってきて廊下で待っている患者ひとりひとりに話しかけている。
なにかあったのかと思っていたら、明日香の前にも若い看護師がやってきた。

「小田陸君のお母様ですか?」
「はい」

「申し訳ございません、診察予約を入れていただいておりました藤原医師が緊急オペに入りまして、代診の医師に変更させていただいてよろしいでしょうか?」

「え?」

「藤原医師をご希望でしたら、日を改めての予約となりますがいかがでしょう」

神田医師の紹介とは別の医師の診察になると聞いて、明日香は迷った。
藤原医師に診てもらいたいという気持ちもあるが、また別の日に予約を取り直すというのも大変だ。
また仕事を休んでスタッフに迷惑をかけるのは申し訳なかった。

「わかりました。代診の先生でお願いします」
「では、ご案内します」

若い看護師は案内してくれるようだ。明日香は陸を抱いたまま後に続いた。
心臓外科には変わりないようで、廊下を曲がったらすぐに看護師が立ち止まった。

「少しお待ちくださいね」

急に患者の割り振りがあったのだから、現場もバタついているだろう。
それでもあまり待つこともなく、予定より少し遅れたくらいの時間で陸の名が呼ばれた。

「小田陸君」

さっきの若い看護師が、診察室のドアを開けて呼びかけてくれる。
明日香は片手に陸を抱き、ベビーカーは廊下に置いたまま中に入った。

医師の席は無人だった。

「先生をお呼びしますね。こちらに座って待っていてください」

「はい」

若い看護師が少し慌てて、白いカーテンの奥に行ってしまった。

キョトンとしたままの陸を胸に抱き、明日香は丸い椅子に腰をおろす。
そういえば、入り口に掛けてあった医師の名札を見ていなかった。
代診の医師はなんという人なんだろう。
名前くらいきちんと覚えなくちゃと思っていたら、白いカーテンがサッと揺れた。

「お待たせしましてすみません」

いきなり目の前に現れた医師を見て、明日香は息をのんだ。

(燈生さん⁉)





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