大切なひと~強引ドクターは最愛の人をあきらめない~


「明日香さん、聞きました?」

「なあに」
「心臓外科に新しい先生が配属されたんですよ」

病院内の情報に疎い明日香に、調理師の服部(はっとり)はよく話しかけてくれる。
新しい情報をどこからか仕入れてきて、明日香に教えてくれるのだ。

「なんでも院長先生の息子さんで、アメリカ帰りらしいです」

「そうなんだ」

看護助手の和美も話しに加わってくる。

「外科の看護師によると、オペナースたちは担当日の争奪戦だそうですよ」
「へえ~」

ふたりは興奮して話し続けるけれど、明日香にはピンとこない。

「もう、明日香さんったら気のない返事」
「ごめんごめん」

明日香がドクターと直接会うのは仕事がらみだし、院長の息子となれば雲の上の存在だ。

「明日香さん、イケメンドクターの顔を見てみたいと思いませんか?」
「う~ん。どうかなあ」

正直に明日香が答えると、和美はガッカリと肩を落とした。

「外科に覗きに行こうかと思ったのに」

医療チームの一員としてカンファレンスに参加することもある明日香となら、外科病棟へ行けると踏んだのだろう。

「明日香さんと一緒なら目立たないかなあと思ったんですけど」

まだ諦められないらしく、どうやって心臓外科に行くか考えている。

「まあ、ほどほどに」

ただでさえ忙しいドクターに会うのは難しい。
仕事の邪魔にならないようにねと明日香が言うと、和美も照れくさそうに頷いた。

「わかってま~す。でもどんな先生なのか見かけたら報告しますね」



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