大切なひと~強引ドクターは最愛の人をあきらめない~
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ロサンゼルスの空は、今日も抜けるように青い。
雨が少なくてからりと晴れた日が多いから、子育てにはピッタリかもしれない。
かつて研修を積んでいた病院で働き始めた燈生とともに、明日香と陸もロサンゼルスへやってきて、そろそろ一年が経つ。
慣れない生活に苦労もあったが、家族として暮らすことで、ひとつひとつ乗り越えてきた。
「パパ~、ママ~、おはよう」
自分の部屋で目覚めた陸が、まだベッドの中にいる明日香たち夫婦の部屋に飛び込んできた。
「おはよう、陸」
陸がベッドにジャンプしてきた。
「おっと、危ないぞ」
燈生が難なく受け止めて、そのままヒョイッと抱え上げてベッドから下りる。
陸はきゃあきゃあ言いながら、燈生にまとわりついた。
ふたりがじゃれている様子を、明日香は毛布にくるまりながら見つめていた。
「こんなふうに起こされるのも、いいもんだな」
「そう?」
離せとばかりに陸がジタバタと手足を動かしているのが可笑しくて、明日香の頬は自然に緩む。
燈生が陸の顔を洗ってリビングへ連れて行ってくれるだろう。
案外マメな父親なのだ。
ゆっくりと起き上がり、明日香もリビングへ向かう。
今日もいい天気。ベランダの大きな窓越しに庭の芝生が瑞々しい。
特別ななにかが起こるわけではない。
朝起きて「おはよう」と言葉を交わし、一緒に朝ごはんを食べる。
燈生は仕事に、明日香は家事と子育てに追われる普通の毎日を送っているだけだ。
それでも燈生と陸が健康でいてくれるだけで、明日香は嬉しい。
「陸は朝から賑やかだなあ」
リビングでは車のおもちゃで遊び始めた陸の大きな声が響いている。
朝食の支度をしていると、燈生がキッチンにやってきた。
「もうすぐ、もっと賑やかになるけど」
「望むところだ」
燈生からの軽いキスが、明日香の頬に落とされる。
「楽しみだよ、奥さん」
「どういたしまして、旦那様」
明日香も背伸びして、燈生の頬にキスのお返しだ。
「あ、僕にもチュして~」
手にミニカーを持ったまま、陸がやってきた。
「あれ、ここにも大きな赤ちゃんがいるぞ」
「赤ちゃんじゃないもん。もうすぐお兄ちゃんだもん」
陸が明日香のお腹に頬を寄せてくる。そこには新しい命が宿っていた。
甘えてくる陸がかわいくて、明日香はそっと頭を撫でてやる。
「今夜パパは病院に泊まることになる。ママを守れるか?」
「うん!」
陸は任せてと言わんばかりに、大きな声で返事をする。
「じゃあ、明日のお昼は病院の前の公園で待ち合わせして、ランチを一緒に食べようか」
「やった~」
「もう、パパってば陸に甘いんだから」
燈生はクスクスと笑う明日香に、もう一度軽いキスをした。
もうひとり、新しい家族が加わる朝が楽しみだ。