私を処刑したら、困るのは殿下ですが……本当によろしいのですか?【コミカライズ進行中】
自分の働いている救護室のことを考えていると、ふとソフィアの頭にある男の顔が浮かんできた。
黒髪に綺麗な紫色の瞳の騎士。
口数が少なく、いつも無表情で落ち着いているその騎士は、毎日どこかを怪我しては宮廷薬剤師であるソフィアの元を訪ねてくる。
(彼は、今日も怪我をしたのかしら? 手当てをしてあげられなくて申し訳ないわ)
そんなことを考えていると、牢屋の前に立っていた兵士が慌てて何か話しているのが聞こえてきた。
誰かがこの地下牢にやってきたようだ。
「いえ! そんな! 地下牢の見張り役など、テオドール卿にさせるわけには! ……いえ、しかし!」
兵士の声は聞こえるが、相手の声はあまり聞こえない。
けれど、テオドール卿という名前を聞いてソフィアは立ち上がった。
まさに今考えていた騎士の名前だったからだ。
「テオドール卿?」
牢の格子に手をかけ、外に向かって声をかけると黒髪の騎士と目が合った。
走ってここに来たのか、めずらしく息を切らして汗をかいている。