あやかし王は溺愛する花嫁に離縁を言い渡される
(はあ、痛い。でも、殴られなかっただけ良い方だと思おう)

 今日は一体、何の日なのだろう。何も聞かされていないのでわからないが、琴禰を隠すということはお客様が来るのだろう。

 無能の娘なんて一族の恥だ。こうやって琴禰は、一生隠され続けるのだろう。

 まるで、元から琴禰という娘はいなかったかのように。

 琴禰は着物の袖に隠していた金平糖を取り出した。一つ摘まんで、太陽にかざすと煌めくように輝いて見えた。

「あなたは綺麗ねぇ」

 桃色に輝く金平糖をうっとりと見つめ、独り言を呟いた。煌めくように美しい桃色は、両親に愛され、そして澄八と結婚する妹と重なって見えた。

 妹は要領が良くて人気者だ。琴禰とは正反対の性格で、両親の自慢の娘。

 摘んだ金平糖を口に放り込むと、舌の上で甘い風味が広がっていく。

「美味しい……」

 世の中には、こんなに甘くて美味しいお菓子があるのか。いつも冷たくなった残り物を食べている琴禰にとっては、まるで異界の食べ物のようだ。
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