あやかし王は溺愛する花嫁に離縁を言い渡される
「わあ、すみません」

 あまりにも可愛すぎて、つい乱暴に拭きたくなる。されるがまま、顔を顰める表情が、さらに愛おしさに拍車がかかる。

「俺を煽らないでくれよ」

 琴禰は煉魁の言っている意味がわからない。不思議そうな顔が、煉魁の胸の奥を刺激する。

「ああ、もう駄目だ」

 煉魁は琴禰を力強く抱きしめた。

「煉魁様、汚れてしまいます」

 泥のついた雑草を片手に持ちながら、あたふたする。

 どうして急に煉魁が抱きしめてきたのか分からない琴禰だったが、愛情表現は素直に嬉しい。ただ、周りから見られることが恥ずかしくはあったが。

「お仕事はいいのですか?」

「ああ。別にやることなんてない」

 煉魁は琴禰を抱きしめ、髪の毛に顔を埋めながら言った。

 もしも今の発言を上層部が聞いたら『やることは山のようにあります!』と激怒しただろうが、誰も指摘してくれる人がいないので、琴禰は『そうなのか』と騙されてしまった。

 でも実際、あやかしは平和だった。

 煉魁は、やる時はやる男だが、やらない時はやらない。
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