あやかし王は溺愛する花嫁に離縁を言い渡される
「何が釣れるのですか?」

 嫌な予感がした。こんなところで釣れるとしたら、妖魔か何か……。

「何も釣れない」

 煉魁は事もなげに言った。

嫌な予想は外れたが、それはそれで問題のある発言だった。

「何も釣れないのに、釣りをするのですか?」

「そうだ。無意味なことだから面白いのだ」

 煉魁が自信満々に笑顔で言うので、なんだか説得力があるようなないような。

 煉魁は、「ここに座れ」と雲の端を指さして言った。

 空が見えている。一歩間違えれば真っ逆さまだ。

 恐る恐る尻込みしながら座ると、煉魁が後ろから抱きしめるような体勢で腰を下ろした。

「釣り竿は一本しかないからな。一緒にやろう」

 釣り糸を空に垂らす。

 何も釣れないと分かってはいるが、ここに座っているだけでなかなか刺激的だ。

 まるで煉魁の胸の中にすっぽり収まったような体勢なので、恐怖心よりも安心感の方が勝る。

 二人で一本の釣り竿を持ち、一面に広がる海のような青空を眺める。

「煉魁様のおっしゃっていたことが、少し分かるような気がします」

「だろ」

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