あやかし王は溺愛する花嫁に離縁を言い渡される
 時折吹く強い風が、緩慢としていた頭に刺激を与えてくれる。

 雄大な自然に溶け込むと、まるで時が止まっているような、はたまたあっという間に過ぎ去ってしまうような不思議な感覚になる。

「寒くないか?」

「煉魁様がいるので温かいです」

 背中に感じる温もりに癒される。ずっとこうしていたいと思った。

「一人で釣りをするのが気楽で好きだったが、二人の方が楽しいな」

「煉魁様と一緒だと何でも楽しいです」

 柔らかな風が吹く。

 夫婦とはいいものだなと改めて思う。

釣り竿を握った二人の左手には指輪がはめられていて、それを見ると幸せな気持ちになった。

「俺はやろうと思えば何でもできてしまうから、つまらなかった。だからずっと、無意味なことをしていた。意味のあることこそが、俺にとっては無意味なことだった」

 煉魁はポツリと心の内を吐露した。

 自慢のようにも思える独白は、煉魁の感情を乗せると悲しい話になった。

「俺は何でも持っていた。富も権力も財力も。女性も選び放題で、だからこそ、何も欲しくなかった」
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