あやかし王は溺愛する花嫁に離縁を言い渡される
なぜか聞いているだけで、琴禰の胸の奥が痛くなった。

 そんな環境は想像することもできない。琴禰には何もなかったから。

 望んでも何も手に入らなかったから。

 でも、煉魁の辛さは不思議なほど共感することができた。

 もしかしたら、全てを手に入れることは、全てを手に入れられないことと同義なのかもしれない。

「そんな俺が唯一欲しいと思ったものが、琴禰だった」

 後ろから抱きしめる力が強まった。

 まるで、もう絶対に離さないと言いたいかのように。

「ようやく、生きている実感がする。ありがとう」

 胸がいっぱいになって、しばらく言葉が出てこなかった。

 お礼を言いたいのは、琴禰の方なのに。

「お礼を言うのは私の方です。私こそ、煉魁様に救われました。私は祓魔の生まれなのですが、無能で虐げられてきたのです」

 琴禰の告白に、煉魁は『やはり祓魔の生まれだったか』と納得した。

 初めて語られる琴禰の過去に、煉魁はそっと耳を傾ける。

 聞きたいけれど、聞いてはいけないような気がして、ずっと謎のままだった。
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