あやかし王は溺愛する花嫁に離縁を言い渡される
意図せず、ホロリと涙が零れ落ちた。

 こんなに美味しいお菓子を食べられて嬉しいはずなのに、胸がどんどん苦しくなってくる。

 琴禰に唯一優しく接してくれたのが澄八だった。淡い初恋が、とうとう終わる。

 大きなエンジン音が聞こえてきたので、琴禰は裏山から屋敷を見下ろした。

すると、ボンネットが長く突き出した黒の三輪自動車が屋敷の前に停車した。

琴禰の両親や桃子、澄八が玄関から出てきて恭しく頭を下げる。

自動車から介添えに手を引かれて出てきたのは、腰の曲がった老婆だった。

たんぽぽの綿毛のような白髪に、絹鼠色の市松模様の上質な着物が品位を醸し出している。

(大巫女様だわ!)

 祓魔一族の酋長(しゅうちょう)のような方である。

大巫女様は、占術を得意とし、その予言は絶対に当たる。ゆえに、大巫女様の言は必定で逆らう者はいない。

そして慶事の日取りや大きな決断を下す際は、大巫女様に占ってもらうことがある。ただ、大巫女様は滅多に占わないので、その大巫女様がわざわざ灰神楽家にお越しになられたのは大変珍しいことだった。
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