あやかし王は溺愛する花嫁に離縁を言い渡される
 雲の端で、幸せな気分で抱き合っていた煉魁の顔が急に険しくなった。

「何者かが、あやかし国に入り込んだ」

 紺碧の海のように穏やかだった空の色が鉛色に染まっていく。

 邪なものが、あやかしの国に潜入したからだ。

「琴禰を宮中に帰している時間はない。悪いが少々付き合ってもらう」

 何が起きたのか分からないけれど、緊迫した状況だけは察した。

 琴禰が頷くと、煉魁は琴禰を横抱きにして一足飛びで雲の上を駆け抜けた。

 異物が入り込んだ場所に到着すると、煉魁は琴禰を下ろした。

「俺の側から離れるなよ」

 煉魁は琴禰の腰を抱き、自らに密着させた。

 緊張感が漂う中、薄く灰色がかった雲の上を歩いてくる人影が見えた。

 そして靄が晴れ、あやかしの国に入り込んだ異物の正体に、琴禰は言葉を失った。

「お前は何者だ」

 あやかし王が問う。

「僕は、祓魔一族の澄八と申します」
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