あやかし王は溺愛する花嫁に離縁を言い渡される
 優しそうな雰囲気と物腰の柔らかさ、そして甘い顔立ちをしているので、侍女たちの人気は高いようだ。

 しかし、男の目が笑っていないことに煉魁は当初から気が付いていた。

(胡散臭そうな男だな。だが、女はこういう腹黒い男に弱い)

 俺の方が何倍もいい男だなと、煉魁は思う。

「そういえば、あの男の名はなんだったか。すら……ちがう、すみか、するめ……」

「澄八ですよ」

「ああ、そうそう、澄八だ!」

 名前を思い出すのに没頭していたら、目の前に観察対象の澄八がいることに気が付かなかった。

「何をさっきから覗き見しているのですか、あやかし王」

「覗き見とは失礼だな。ここは俺の国だ。何を見ようと俺の自由だ」

 煉魁は澄八の前で腰に手を当て背筋を伸ばした。

 煉魁の方が炭八より頭半分くらい大きい。自らの優位性を誇示していた。

「確かに何を見ようと勝手ですが、するめはないでしょう。気になる相手の名前くらい覚えておくものですよ」

 澄八は口の片端を上げ、呆れるように言った。

「気になる? 俺がお前ごときを?」
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