あやかし王は溺愛する花嫁に離縁を言い渡される
心の中で煉魁に詫び、そして白木蓮が咲いている場所へと向かった。

夜は更け、真っ暗な宮中で中空の細い月の明かりだけが闇を照らしている。夜の底冷えは、吸う息が胸を刺し、体の弱った琴禰には沁みた。

月明かりの下で、白木蓮の花びらが空に向かって咲いていた。高木は堂々と梢を突き立て、涼やかな風が純白の大輪を揺らし、香を吹き送る。

 その大木の下で、澄八が腕を組んで物憂げに立っていた。

「遅かったね」

「申し訳ございません。煉魁様が寝静まるのを待っていたものですから」

 水仙の毒と式神を使ったことを話すと、澄八は満足気な笑みを見せた。

「さすがだね。そこまでして僕に会いたかったの?」

 澄八は琴禰の頭を撫でた。

「……はい」

 ここまで自分の体を犠牲にしたのは、澄八のためではなく煉魁のためだ。

 血の契約は発動させない。命を懸けても煉魁を守る。

「じゃあ、僕に口付けして」

「え⁉」

 耳を疑った。まさかそんなことを要求されるとは思ってもみなかった。

「僕が好きなのだよね?」

 澄八はまるで琴禰を試すような鋭い目付きだった。

「あ……でも、さっき胃の中の物を全部吐いてきたので」

 澄八は汚そうに目を顰めた。

 吐いていて良かったと心から思った。

「ねぇ、琴禰。本当に僕のことが好きなの?」
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