あやかし王は溺愛する花嫁に離縁を言い渡される
  圧倒的優位のはずなのに、澄八の心に一抹の不安が残る。

 そのような最悪な状況を想定し、慎重を期さねばならない。

 澄八はそうやって成り上がっていった男だった。

 一方、澄八が逃げるようにその場を立ち去った後、琴禰の体に血が通い、動けるようになった。

 琴禰の体は今や、存在自体が激甚の火種のようなものだ。

 いつ暴発するかわからない。澄八がこの国にいる間は発動させないとしても、人間界に戻れば身の安全は確保されるため、いつ発動させたとしてもおかしくない。

 絶望しかない現実に、琴禰は打ちのめされた。

(やっぱり私は生まれてきてはいけなかった)

 頭の芯がくらくらする。膝から崩れ落ち、地面に手をついて嗚咽を漏らした。

(私の存在自体が厄災なのよ)

 幸せになってはいけなかった。

 あやかしに着いた時に、誰にも見つけられることなく死んでしまえば良かった。

 生きたいと願ってはいけなかった。

(ごめんなさい、ごめんなさい、煉魁様)

 琴禰がどんな選択をしたとしても、煉魁を傷つける結果となる。
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