あやかし王は溺愛する花嫁に離縁を言い渡される

命に代えても

「私と離縁してください」

 琴禰は真っ直ぐな瞳で煉魁を見つめた。

 煉魁はまるで、時が止まったように感じた。可愛らしい唇から一番聞きたくない言葉を吐かれた。

 胸にグサリと刺さった言葉の刃は抜けそうもない。

(やはり、そうか……)

 昨夜煉魁は、琴禰と澄八の逢引きを見てしまった。

 厠へ行く琴禰の気配を感じ、目が覚めた。

 全てを吐いてしまった方が良いと侍医から聞いていたので、少し安心した。

 琴禰の様子を見に行くために部屋を覗くと、琴禰は布団に入って安らかに眠っていた。

 襖を閉めようとした時、何かの違和感に気が付いた。

 煉魁でなければ誰も気が付かないであろう術式の気配だ。

(これは、祓魔の力?)

 煉魁は琴禰に近付き、布団をはぎ取った。しかし、琴禰はすやすやと眠り、起きる気配もない。

(これは琴禰ではない)

 しかし、琴禰の術式だ。つまり琴禰は、自らの意思でいなくなったのである。

 琴禰の姿に似せたものを寝かせ、煉魁を欺こうとしてまで。

 何事もなかったかのように布団をかぶせ、煉魁は外に出た。
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