あやかし王は溺愛する花嫁に離縁を言い渡される

人間界

 煉魁は、あやかし国を飛び立つと、人間界に降り立った。

 黒い羽目板のある木造の蔵が立ち並び、タイヤが三輪の車が石畳の街道を走っていた。

 若い女性は袴を着て、楽しそうにお喋りに興じている。男性は和装や洋装が入り混じり、学ランに高下駄を履いて音を鳴らして闊歩している者もいる。

 そんなところに、銀色の長い髪をした眉目秀麗な男性が、薄い紫を帯びた白地の着物で立っているのだから異様に目立つ。

 煉魁は周囲の街並みを一瞥すると、「ここじゃないな」と一言呟いて飛び立った。

 いきなり人間が空を飛ぶように移動していったので、そこにいた人々は騒然となった。

 一足跳びをして向かった先は、祓魔一族の住む山奥だった。

 (ひのき)(かし)の木が整然と並び、光を吸い込んだ生い茂った緑に囲まれている。木々を刈り込むように、大きな屋敷が点々と立ち並び集落を形成していた。

(ここが琴禰の生まれ育った場所か)

 さきほど煉魁が降り立った都会とは違い、静かでのどかな場所だった。

 煉魁がどこに行こうか逡巡していると、集落の中でもひと際大きな屋敷から澄八の気配を感じた。さらに、多くの村人が集まっているらしく、祓魔の力がその屋敷に集中していた。
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